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学芸員コラムColumn

2017年5月2日展覧会#025 「よみがえった文化財」

国宝・ユネスコ世界記憶遺産《東寺百合文書》 京都府立京都学・歴彩館蔵

 現在、石川県文化財保存修復工房設立20周年を記念して、企画展「よみがえった文化財」が開催されています。本展は、工房の修復実績を集大成することを主眼としたものですが、何よりも石川県が全国に先駆けて公立美術館の付属施設として工房を設置した歴史的背景として、加賀藩主・前田家、特に五代藩主・綱紀の業績に光を当てている点が見所となっています。前田綱紀は体系的な書籍の収集に注力し、収集困難なものについては借用して写本を作らせ、返納の際には書物を修復し、また《東寺百合文書》に代表される収納箱の新調や保管に際しての助言を行うなど、文化財保存修復の先駆者として積極的に活動しました。そして、本展では綱紀の収集と保存修復の熱意が、同じ朱子学の思想に立脚していることを明らかにしました。
 朱子学が説く「敬」は、無限の向上心をもって学習する原動力であり、万物の理を体現し、あるべき秩序をもたらす聖人への道でした。したがって、聖人の観点からは経年劣化し、長年の使用によって傷んだ典籍類は、あるべき秩序が崩壊した状態であり、全巻がそろっていない絵巻や書物も、同様に無秩序な状態といえます。そこで、敬によって学問に邁進している前田綱紀には、人類の叡智を伝え聖人への道標となる書物の傷みや欠損は、物理的かつ精神的な無秩序として、何よりも自身が全力を挙げて改善に取り組むべき課題と認識されました。こうした活動の一方で、新たな武具の開発・製作も行っているのですから、松雲公(綱紀)畏るべし、です。(村瀬博春)

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