タイトル:かねは雄弁に語りき-石川県立美術館の金属コレクション-

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概要

かねは雄弁に語りき-石川県立美術館の金属コレクション-の作品解説電子ブックです。

37やま山てつ鉄だ田うち打そう宗だし出び美はと鳩おき置もの物Ornament, in shape of pigeon, iron embossment1909(明治42)年鍛金あぶみがわら鐙瓦にとまる鳩の自然な姿をとらえた作品。鳩の柔らかな羽毛と硬い瓦の質感を、鉄素材のみで見事かなづちに対比している。本作は1枚の鉄板を熱して金槌で打つことを繰り返す「鉄打出」の技法で成形したもので、展延性(薄く、長くのびる金属の性質)に乏しい鉄を自在に操る高度なわざがみられる。特に、鳩の下腹部でぐっと絞られた鉄板が瓦の部分へと大きく広がる部分は驚くべき技巧である。また、叩き伸ばすことで鉄板が薄くなっているので、本作は見た目よりもずっと軽く、約1.1kgしかない。本作は、鉄打出という超絶的なわざの真骨頂といえるだろう。銘は、瓦奥側上面に陰刻で「明治己酉宗美鎚」とある。〔石川県指定文化財〕(YT)38やま山てつ鉄だ田うち打そう宗だし出び美ほてい布おき袋置もの物Ornament, in shape of Hotei, iron embossment明治19-20世紀鍛金山田作品において布袋を題材とした作例は複数確認されており、そのどれもが柔和な表情とやわらかな質感を備えている。本作も例にもれず、大きくふくらんだ袋に寄りかかり笑みをたたえる布袋が鉄打出で表される。少しデフォルメされた顔や身体が愛らしい一方で、足爪の一本一本まで表現されるなど、細部まで行き届いた造形は確かな技術を感じさせる。山田家は慶長年間の刀剣鍛冶にさかのぼり、甲冑や象嵌鐙を手がけた。甲冑師の家系として著名な明珍にも学んだ父・宗光に鍛金を学んだ宗美は、鉄打出の技法により、国内外の博覧会で驚嘆をもって迎えられた。帝室技芸員に推挙されたと考えられるが、その発表前に死去した。(YT)24